心に残った短編です。
「つゆのひぬま」とは「露の干ぬ間」
朝露も乾かないほど短い間、ほんのひとときという意味です。
深川の小さな娼家で働くおぶん
不幸な過去を持つ良助を客にとります。
年かさの娼婦おひろは、労咳の浪人の夫と子供をかかえている、と
自分の身の上話を作り上げ、金をためるのに励んでいます。
おひろは、「客との間に真実の愛は育つはずがない」
と言い、またそうなってもならない、と決めています。
おひろに言わせれば
「どんなに真実想い合う仲でも、きれいで楽しいのはほんの僅かの間、
露の干ぬまの朝顔、ほんのいっときのこと
なのです。
おぶんにそう忠告するのですが、おぶんはそれでも
だんだんと良助を待つようになります。
そんな時、大洪水が起き、屋根の上に取り残されたおひろとおぶん。
愛情に不信感を持っていたおひろは、おぶんを助けに来た良助の真実の愛に、打ちのめされるのです。
自分の貯めた全財産をおぶんの懐に押し込み、
おぶんを良助の船に乗せ、
「・・・つゆのひぬま・・・と言ったのは取り消してよ」
と、一人屋根に残ります。
おひろはこの後どうなるのかもわかりませんが
妙に清々しいのです。
人はみな重たい荷物を背負って生きているけれども、
どんな時も人を信じる事を忘れてはいけない
そんなことを感じさせてくれた物語でした。
TAMA